敷金トラブル回避!退去時の原状回復・ハウスクリーニング相場と対策
「退去時の原状回復費用やハウスクリーニングの相場が分からず、敷金が戻るか不安…」
そんな悩みを抱えていませんか?
この記事を読めば、費用の内訳や適正な相場やどのような汚れが原状回復の対象となり得るのかを理解し、不当な請求を避けられるようになります。
具体的には、原状回復の基本ルール、日常的な汚れと特別な汚れの区別、部屋の広さ別のハウスクリーニング相場、契約書の特約の注意点、費用を抑えるコツ、万が一のトラブル相談先まで詳しく解説します。
この記事を参考に、退去時の不安を解消し、気持ちよく新生活をスタートさせましょう。

原状回復とクリーニングの違いは?
賃貸物件を退去する際、「原状回復」と「ハウスクリーニング」という言葉をよく耳にしますが、この二つは意味合いが異なります。
この章では、「原状回復」と「ハウスクリーニング」の基本的な意味、目的、そして誰が責任を負うのかという範囲の違いを分かりやすく解説します。
以下の内容について掘り下げていきます。
- 原状回復の正しい定義と、借主が負う責任の範囲
- ハウスクリーニングが行われる目的と、費用負担の原則
- 原状回復義務に含まれる清掃と、一般的なハウスクリーニングの範囲の具体的な違い
原状回復とは?基本を解説
賃貸物件を退去する際、「原状回復」という言葉をよく聞きますが、「借りた時と全く同じ、新品同様の状態に戻すこと」と捉えている方もいるかもしれません。
国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、原状回復とは、借主がわざと(故意)または不注意(過失)によってお部屋に与えてしまった損傷や、通常とは言えない使い方によって生じた汚れなどを元に戻す義務を指します。
つまり、あなたが壊したり汚したりした部分の修繕費用を負担する必要がある、ということです。
一方で、普通に生活していて自然にできる傷や汚れ(通常損耗)、例えば家具を置いていた場所の床のへこみや、日光による壁紙(クロス)の色あせ(経年劣化)などは、原状回復の義務には含まれません。
これらは、毎月支払っている家賃に含まれるものと考えられており、原則として貸主(大家さんや管理会社)が費用を負担すべきものとされています。
まずは「原状回復=借主の故意・過失による損傷の修復」という基本をしっかり理解することが、退去時の不要なトラブルや費用請求を避けるための第一歩です。
ハウスクリーニングの目的とは?
退去時に原状回復と並んでよく話題になるのが「ハウスクリーニング」の費用です。
ハウスクリーニングとは、次の入居者が気持ちよく新生活をスタートできるよう、専門の業者がキッチン、浴室、トイレといった水回りや床、窓など、室内全体をきれいに清掃する作業のことです。
これは、賃貸物件を清潔に保ち、その価値を維持するために行われます。
国土交通省のガイドラインでは、この次に入居する人のための一般的なハウスクリーニング費用は、原則として貸主(大家さんや管理会社)が負担すべきものとされています。
物件を賃貸可能な状態に保つための費用であり、通常損耗や経年劣化の回復と同様に、本来は家賃収入で賄われるべき性質のものだからです。
しかし、実際の賃貸借契約では、「退去時のハウスクリーニング費用は借主負担とする」という特約(特別な約束事)が契約書に記載されているケースが非常に多く見られます。
この特約が法的に有効かどうかは条件によりますが、まずはご自身の契約書にそのような記載がないか確認することが極めて重要です。
原則と実態が異なる場合がある点を理解しておきましょう。
原状回復とクリーニング範囲の違い
「原状回復」と「ハウスクリーニング」は、目的も作業範囲も異なります。
この違いを理解することが、退去費用の請求内容を正しく判断するために重要です。
原状回復は、主に借主の故意・過失によって発生した特定の「損傷」や「汚れ」をピンポイントで修繕・清掃することです。
例えば、壁に開けてしまった穴を塞ぐ、こぼした飲み物のシミを特殊な方法で除去するといった作業が該当します。
これは、いわばマイナスの状態をゼロに戻すイメージです。
一方、ハウスクリーニングは、特定の損傷の有無に関わらず、次の入居者のために室内「全体」をきれいにすること(美装)が目的です。
キッチンや浴室、トイレの水回り、換気扇内部の油汚れ洗浄、フローリングのワックスがけ、窓拭きなど、広範囲にわたる専門的な清掃作業が含まれます。
こちらはゼロの状態をプラスにする、または維持するイメージです。
ただし注意点として、借主が日常の掃除を怠った結果、通常の清掃では落ちないレベルのカビやキッチンの油汚れが発生した場合、それは「善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)違反」とみなされ、その部分の特別な清掃費用が原状回復の一部として借主に請求される可能性はあります。
請求された費用が、部分的な修繕(原状回復)なのか、全体的な清掃(ハウスクリーニング)なのかを見極めましょう。
最後に、原状回復とハウスクリーニングの違いを表で示します。
項目 |
原状回復 |
ハウスクリーニング |
---|---|---|
目的 |
借主の故意・過失による損傷の修復 |
次の入居者のための室内美装 |
範囲 |
特定の損傷箇所のみ (ピンポイント) |
部屋全体(広範囲) |
イメージ |
マイナスの状態をゼロに戻す |
ゼロの状態をプラスにする・維持する |
費用負担 |
原則として借主負担 |
原則として貸主負担(特約で変更可能) |

ハウスクリーニング費用の相場
賃貸物件を退去する際にハウスクリーニングを業者に依頼する場合、一体どのくらいの費用を見込んでおけば良いのでしょうか。
この章では、気になるハウスクリーニングの具体的な料金相場について詳しく解説します。
主に以下の内容について掘り下げていきます。
- 部屋の広さ(間取り)ごとの一般的な費用目安
- 特定の場所だけを依頼する場合の料金相場
- 部屋に荷物がない「空室」状態と「入居中」での料金の違い
- 一般的な相場よりも費用が高くなってしまうケース
間取り別の費用目安をチェック
ハウスクリーニングの料金を決める上で、最も基本的な要素となるのがお部屋の「間取り」、つまり広さです。
当然ながら、部屋が広くなればなるほど、清掃するべき床面積や壁、窓の数なども増えるため、作業にかかる時間や必要なスタッフの人数、使用する洗剤や機材の量も多くなります。
そのため、ハウスクリーニングの費用は、部屋の広さに比例して高くなるのが一般的です。
あくまで目安ではありますが、退去時(空室)のマンションやアパートの場合、一般的な料金相場は以下のようになっています。
間取り |
一般的な料金相場 |
ワンルーム・1K |
15,000円~40,000円 |
1LDK・2DK |
30,000円~70,000円 |
3LDK以上 |
50,000円~85,000円以上 |
ワンルームや1Kといった単身者向けの部屋で15,000円から40,000円程度、1LDKや2DKで30,000円から70,000円程度、そして3LDK以上のファミリータイプの部屋になると50,000円から85,000円以上となることが多いようです。
ただし、これは基本的な作業に対する料金の目安であり、実際の金額は依頼する業者や住んでいる地域、部屋の汚れ具合、追加オプションの有無などによって変動します。
まずはご自身の部屋の間取りを基準に、大体の費用感を掴むための参考情報としてください。
場所別クリーニングの料金相場
部屋全体をまとめてクリーニングするのではなく、「キッチンの油汚れだけが気になる」「浴室のカビを徹底的に除去してほしい」といったように、特定の場所だけをピンポイントで清掃したい場合もあるでしょう。
多くのハウスクリーニング業者では、こうしたニーズに応えるために、場所別のクリーニングメニューを用意しています。
箇所ごとの一般的な料金相場を見てみると、例えばキッチン(シンク周りやコンロなど)で15,000円~26,000円程度、浴室全体で11,000円~30,000円程度、レンジフード・換気扇の分解洗浄で14,000円~、トイレ清掃で6,000円~10,000円程度、壁掛けタイプの標準的なエアコンクリーニングで8,000円~18,000円程度です。
ただし、これらの料金もあくまで目安です。
個別に複数の箇所を依頼するよりも、「キッチン・浴室・トイレの水回り3点セット」のようなパッケージプランを利用する方が、合計金額が割安になるケースが多くみられます。
予算を抑えたい場合や気になる箇所が限られている場合は、全体クリーニングの費用と比較検討し、部分依頼やセットプランの利用を考えてみるのもよいでしょう。
ただし、賃貸契約の特約によっては、退去時に業者による全体清掃が必須とされている場合もあるため、事前に契約書の内容を確認しておくことが大切です。
以下に、一般的な場所別クリーニングの料金相場を示します。
クリーニング箇所 |
一般的な料金相場 |
キッチン (シンク周り・コンロなど) |
15,000円~26,000円 |
浴室全体 |
11,000円~30,000円 |
レンジフード・換気扇の 分解洗浄 |
14,000円~ |
トイレ清掃 |
6,000円~10,000円 |
エアコンクリーニング (壁掛けタイプ) |
8,000円~18,000円 |
空室・入居中で料金は違う?
ハウスクリーニングを依頼する際、部屋の状態が「空室」か「入居中」かによって、料金設定が異なる場合があります。
多くの場合、同じ間取りの部屋であっても、家具や荷物が何もない「空室」の状態でのクリーニングの方が、「入居中」のクリーニングよりも料金が安く設定されています。
その理由は、作業効率の違いです。
空室であれば、部屋の中に障害物がないため、スタッフは作業スペースを広く確保でき、清掃作業をスムーズに進められます。
また、家具や家電などを移動させる手間や、それらが汚れたり破損したりしないように保護する「養生」の手間もほとんどかかりません。
作業効率が良く、手間やリスクが少ない分、料金を安く設定できるのです。
賃貸物件の退去時に行われるハウスクリーニングは、通常、引越しで荷物をすべて運び出した後、つまり「空室」の状態で行われます。
そのため、基本的にはこの「空室クリーニング」の料金体系が適用されることになります。
もし、何らかの理由でまだ住んでいる状態(入居中)でハウスクリーニングを依頼する場合は、「在宅クリーニング」扱いとなり、空室クリーニングよりも料金が割高になるのが一般的ですので覚えておきましょう。
相場より高くなるケースとは?
これまでご紹介してきたハウスクリーニングの費用相場は、あくまで一般的な汚れ具合や標準的な作業内容を前提とした目安の金額です。
実際には、いくつかの要因によって、見積もり額や最終的な請求金額がこれらの相場よりも高くなってしまうケースがありますので注意しましょう。
まず最も多いのが、汚れの程度が通常よりも著しくひどい場合です。
例えば、長年にわたって放置され頑固にこびりついた浴室のカビや水垢、換気扇内部まで油で固まってしまっているキッチンの汚れ、壁紙全体が黄ばんでしまうほどのタバコのヤニ汚れ、ペットによる強い臭いや大量の抜け毛などです。
これらは標準的な清掃作業だけでは除去が難しく、特別な洗浄剤や機材、追加の手間が必要になるため、追加料金が発生することがあります。
また、エアコンの内部洗浄(分解洗浄)、浴槽のエプロン内部の高圧洗浄、フローリングの古いワックスの剥離や再塗装、強力な消臭・除菌作業といった、標準作業に含まれないオプションメニューを追加で依頼した場合も当然費用は加算されます。
その他、天井が高い吹き抜けや特殊な素材の床・壁など、清掃が困難な設備や構造がある場合、引越しが集中する3月~4月などの繁忙期に依頼する場合なども、料金が高くなる傾向です。
見積もり時には、追加料金が発生する条件などをしっかり確認しましょう。

クリーニング費用を抑える方法
賃貸物件を退去する際にかかるハウスクリーニング費用は、できれば賢く抑えたいものですよね。
少しの手間や工夫次第で、実際に負担する金額を減らせるかもしれません。
この章では、そのための具体的な方法について詳しく解説します。
主に以下の内容について掘り下げていきます。
- 自分で行う退去前の掃除(セルフクリーニング)の効果とポイント
- 複数の業者から見積もりを取って比較検討する重要性
- 費用を抑えるための依頼時期の選び方(繁忙期・閑散期)
- 業者のお得なセットプランやキャンペーンを活用する方法
退去前のセルフクリーニング効果
最終的にプロのハウスクリーニング業者に依頼する予定であっても、退去前に自分でできる範囲の掃除、いわゆる「セルフクリーニング」をしっかり行っておくことは、費用を抑える上で意外な効果を発揮することがあります。
その主な理由は、借主が負う「善管注意義務」と関係があります。
もし、普段の掃除を怠った結果、通常のクリーニングでは落としきれないようなひどい汚れは、「善管注意義務違反」とみなされ、特別な清掃作業が必要となり、その分の追加費用を請求されてしまう可能性があるのです。
例えばお風呂場にびっしりと生えた黒カビや、キッチンの壁や換気扇にこびりついた油汚れなどが残っている場合です。退去前に、こうした頑固な汚れになりそうな箇所を重点的に自分で掃除しておけば、プロの作業範囲を標準的なものに留め、追加請求のリスクを減らせます。
特に汚れが蓄積しやすいキッチン(コンロ周り、シンク)、浴室(カビ、水垢)、トイレ(便器の黄ばみ)などは念入りに掃除しておくと良いでしょう。
ただし、プロ並みの仕上がりを目指す必要はありません。
あくまで「通常の清掃」レベルで、目立つ汚れを落としておく、という意識で十分です。
時間と労力は必要ですが、この一手間が節約につながるかもしれません。
複数業者から相見積もりを取る
専門のハウスクリーニング業者に依頼する場合、費用を適正な価格に抑えるために絶対に欠かせないのが「相見積もり」です。
これは、1社だけでなく、複数の業者から見積もりを取り、料金やサービス内容を比較検討することを指します。
なぜこれが重要かというと、ハウスクリーニングの料金設定やサービス内容は、業者によって驚くほど差があるからです。
ある業者では基本料金に含まれている作業が、別の業者ではオプション扱い(追加料金)だったり、同じ作業内容でも料金が数千円から数万円単位で違ったりすることも珍しくありません。
最低でも3社程度の業者から見積もりを取ることで、依頼したい作業内容に対するおおよその相場感を掴むことができます。
これにより、不当に高額な料金を請求してくる業者や、逆に料金は安いけれど必要な作業が含まれていない、あるいは作業の質が低いといった業者を避け、適正な価格で信頼できる業者を見つけやすくなります。
見積もりを比較する際は、単に総額の安さだけでなく、具体的にどのような作業が含まれているのか、追加料金が発生する条件は何か、万が一の事故に備えた損害賠償保険に加入しているかなども、しっかりと確認・比較することが大切です。
手間を惜しまず相見積もりを行うことが、賢い業者選びと費用抑制の第一歩と言えるでしょう。
繁忙期を避けて依頼するコツ
ハウスクリーニングの費用は、実は依頼する「時期」によっても変動することがあります。
もし、退去や引越しの日程、それに伴うハウスクリーニングの依頼時期にある程度の融通が利くのであれば、いわゆる「繁忙期」を避けて依頼することで、費用を抑えられるかもしれません。
ハウスクリーニング業界の繁忙期は、主に引越しシーズンと重なる3月から4月にかけて、そして年末の大掃除シーズンです。
この時期は、退去や入居に伴うクリーニング依頼が殺到するため、業者は強気の価格設定をしがちで、通常期よりも料金が高めに設定されていたり、割引キャンペーンなどが適用されなかったりすることが多くなります。
また、希望の日時に予約を取ること自体が難しくなることがデメリットです。
逆に、これらの繁忙期を外した時期は、業者によっては料金が通常価格に戻ったり、閑散期限定の割引キャンペーンを実施したりしている場合があります。
例えば引越しシーズンが落ち着いた5月以降や、需要が比較的少ないとされる1月~2月、6月頃(ただし業者や地域によって閑散期は異なります)などです。もし引越しの日程を調整できるなら、繁忙期を避けることを検討してみる価値はあるでしょう。
日程が固定されている場合でも、繁忙期に依頼することが決まっているなら、できるだけ早めに業者を探し始め、予約を確定させることをおすすめします。
お得なセットプランを活用する
ハウスクリーニングの費用を抑えるもう一つの方法として、業者が提供している「セットプラン」や「パッケージプラン」を上手に活用することが挙げられます。
これは、例えば「キッチン」「浴室」「トイレ」といった水回り関連の箇所や、「レンジフード(換気扇)」と「キッチン全体」など、関連性の高い複数のクリーニング箇所を組み合わせて、割安な料金で提供するプランのことです。
個別のクリーニングメニューを一つひとつ依頼していくよりも、こうしたセットプランを利用する方が、トータルの費用が安くなる場合が多いでしょう。
なぜなら、業者は複数の作業をまとめて効率的に行えるため、その分割引した価格を設定しやすいからです。
よく見られるのは、「水回り3点セット(キッチン・浴室・トイレ)」や「水回り5点セット(+洗面所・洗濯パン)」、「キッチンまるごとセット(キッチン+換気扇)」、「エアコンクリーニングセット(室内機+室外機)」などです。
業者によっては、期間限定のキャンペーンとして特別な組み合わせのセットプランを提供していることもあります。
もし、クリーニングを依頼したい箇所が複数ある場合は、まずそれぞれの箇所を個別に依頼した場合の合計金額を計算してみて、それとセットプランの料金を比較検討してみましょう。
各業者のウェブサイトなどをチェックして、自分のニーズに合ったお得なプランがないか探してみることをおすすめします。

費用トラブルを避けるための注意点
賃貸物件を退去する際には、残念ながら原状回復費用やハウスクリーニング費用に関して貸主とトラブルが生じることがあります。
この章では、そうしたトラブルを未然に防ぐために、借主として押さえておくべき重要な注意点を解説します。
主に以下の内容について掘り下げていきます。
- 賃貸借契約書、特に「特約」の内容を確認する重要性
- 入居時に部屋の状態を写真で記録しておくことの効果と方法
- 退去時の「立ち会い」で冷静に確認・対応すべきポイント
- 退去後に受け取る請求書(精算書)を細かくチェックする項目
賃貸契約書の特約を必ず確認
賃貸物件の退去時、特に費用に関するトラブルを避けるために、まず最初に行うべき最も重要なことは、賃貸借契約書の内容をしっかりと確認し、理解しておくことです。
特に注意が必要なのが「特約」と呼ばれる条項です。
この特約には、国土交通省のガイドラインが示す一般的なルール(例えば、基本的なハウスクリーニング費用は貸主負担など)とは異なり、借主(あなた)に追加の費用負担を求める特別な約束事が記載されている場合があります。
例えば、「退去時のハウスクリーニング費用は、汚れの程度に関わらず借主が負担する」といった特約が代表的です。
契約を結ぶ際には、こうした費用負担に関する特約があるかどうか、ある場合は、負担する金額が具体的に(例:「〇〇円」と)明記されているか、「実費」のような曖昧な記載になっていないか、その金額は市場の相場と比較して妥当な範囲か、などを必ず確認しましょう。
もし内容に不明な点や納得できない部分があれば、署名する前に遠慮なく不動産会社や貸主に質問し、説明を受けるべきです。
そして、退去が近づいてきた際にも、改めて契約書を読み返し、どのような特約を結んでいたか再確認することが、後のトラブル防止につながります。
入居時の状況を写真で記録する
退去時に「この傷はあなたが住んでいる間につけたものでしょう?」と、身に覚えのない部屋の損傷を指摘され、修繕費用を請求されてしまうような理不尽なトラブルを防ぐために、非常に有効な自衛策が「証拠を残すこと」です。
特に重要なのが、入居してすぐ、まだ家具や荷物を運び入れる前のまっさらな状態で、部屋の隅々までチェックし、元からあった傷や汚れ、設備の不具合などを写真で記録しておくこと。
この「入居時の写真」は、退去時に指摘された損傷が「いつからあったものか」を客観的に証明する強力な証拠となるからです。
「これは入居した時から既にありました」と写真を示して主張できれば、本来あなたが負担する必要のない原状回復費用を支払わずに済みます。
具体的な方法としては、以下の気になる箇所をスマートフォンなどで撮影します。
- 壁
- 床
- 天井
- ドア
- 窓
- クローゼットの中
- キッチン設備
- 浴室
- トイレ
その際、日付表示機能を使う、当日の新聞や日付を書いたメモと一緒に写すなど必ず撮影日が分かるように工夫しましょう。
傷や汚れの場所が特定できるよう少し引いた全体像と、状態がはっきり分かるアップの写真を撮っておくと万全です。
管理会社から渡される「現況確認書」にも正直に記入し、写真と共にコピーを取って一部を貸主側に提出し、控えと写真データは退去後の精算が完了するまで大切に保管してください。
以下に、写真で記録すべき箇所と撮影のポイントを表で示します。
記録すべき箇所 |
撮影のポイント |
---|---|
壁 |
傷、穴、汚れ、壁紙のはがれなど |
床 |
傷、へこみ、シミ、フローリングの状態など |
天井 |
シミ、カビ、クロスの剥がれなど |
ドア |
傷、へこみ、開閉の状態など |
窓・窓枠 |
傷、破損、汚れ、結露の跡など |
キッチン設備 |
シンク、コンロ、換気扇、棚の状態など |
浴室 |
壁・床のタイル、シャワー、浴槽、排水口など |
トイレ |
便器、タンク、床、壁の状態など |
クローゼット |
内部の壁、棚、扉の状態など |
退去時の立ち会いで確認すべき点
賃貸物件の退去手続きの一つとして、通常、貸主または管理会社の担当者と借主が一緒に部屋の状態を確認する「退去立ち会い」が行われます。
この立ち会いは、どの箇所に修繕が必要で、その費用をどちらが負担するのかについて、双方の認識をすり合わせるための重要な機会です。
しかし、借主としてはいくつか注意すべき点があります。
まず、可能な限りこの立ち会いには必ず参加しましょう。
そして、事前に準備しておいた入居時の写真や現況確認書の控えを持参し、担当者から指摘された傷や汚れについて、それがいつ発生したものなのか、入居前からあったものではないか普通に生活していて生じる範囲の損耗(通常損耗・経年劣化)ではないか、などを冷静に確認・照合します。
もし、自分の責任ではないと思われる箇所について費用負担を求められた場合は、持参した証拠を示しながら、その場で明確に自分の意見を伝えることが大切です。
また、立ち会いの最後に「確認しました」という確認書、精算に関する合意書などの書類に署名を求められることがよくありますが、内容を十分に理解・納得できないまま、あるいはその場の雰囲気に流されて安易に署名するのは絶対に避けましょう。
「持ち帰って内容をよく確認してから、後日お返事します」と伝え、署名を保留する勇気も必要です。
立ち会いは単なる確認作業ではなく、費用負担に関する重要な話し合いの場であることを意識し、慎重に対応しましょう。
請求書の内訳を細かくチェック
退去立ち会いが終わり、引越しが完了してしばらくすると、貸主や管理会社から原状回復費用やハウスクリーニング費用に関する請求書、または敷金からこれらの費用を差し引いた精算書が送られてきます。
この書類を受け取ったら、「これで終わりだ」と安心せず、すぐに支払いや合意に応じる前に、記載されている内容を一つひとつ丁寧に、そして厳しくチェックすることが非常に重要です。
なぜなら、請求書の中には、本来なら貸主が負担すべき費用が含まれていたり、修繕範囲や単価が市場の相場よりも不当に高く計算されていたりするケースも残念ながら見受けられるからです。
具体的なチェックポイントとしては、まず各請求項目が具体的に記載されているかを確認します。
例えば「修繕工事一式〇〇円」のような曖昧な記載ではなく、どの場所の・どのような作業に・いくらかかったか、数量や単価がわかるかをチェックします。
次に、その項目が本当に借主負担の範囲(故意・過失によるもの)か、通常損耗や経年劣化分まで含まれていないかを入居時の記録などと照らし合わせて確認します。
壁紙の張替えなどでは、修繕範囲が必要最小限か、耐用年数を考慮した減価償却が正しく適用されているかも重要なポイントです。
契約書に特約がある場合は、その内容通りの請求になっているかも確認しましょう。
請求内容に少しでも疑問があれば、ガイドラインや契約書、写真、市場相場などを根拠に、貸主側に説明を求め、納得できなければ交渉することが大切です。

信頼できる業者の選び方5選
退去時のハウスクリーニングをどの業者に依頼すべきか、迷ってしまう方も少なくないでしょう。
料金の安さだけで選んでしまうと、後で思わぬトラブルに巻き込まれる可能性も否定できません。
この章では、後悔しないために「信頼できる業者」を見極めるための具体的な選び方のポイントを5つに絞って詳しく解説します。
主に以下の内容について掘り下げていきます。
- 料金体系が明確で分かりやすいか
- 万が一の事故に備えた損害賠償保険に加入しているか
- 十分な作業実績があり、利用者の評判(口コミ)は良いか
- 提示された見積もり内容が妥当なものか
- 問い合わせ時のスタッフの対応は丁寧で迅速か
選び方(1)料金体系の明確さ
信頼できるハウスクリーニング業者を見分けるための最初のチェックポイントは、料金体系が明確で分かりやすいかどうかです。
見積もり書や業者のウェブサイトを見たときに、以下の情報が事前にきちんと、そして具体的に説明されているかを確認しましょう。
- どの作業にいくらかかるのか
- 基本料金にはどこまでの作業範囲が含まれているのか
- 追加料金が発生するとしたらどのような場合でいくらなのか
例えば、
- 「エアコンクリーニング:〇〇円」
- 「浴室クリーニング:〇〇円」
といった基本的な料金表示はもちろん、
- 「汚れがひどい場合は追加料金〇〇円が発生する可能性があります」
- 「駐車場代が別途必要です」
など、追加で費用が発生する可能性についても正直に記載されているかどうかが重要です。
料金に関する情報が曖昧な業者を選んでしまうと、作業が終わった後に「これも追加です」「あれも別途かかります」などと言われ、想定外の高額な請求を受けるトラブルにつながりかねません。
「業界最安値」や「格安」といった言葉だけで判断せず、料金の透明性が確保されているか、納得できるまでしっかり確認することが、誠実な業者を選ぶための第一歩です。
選び方(2)損害賠償保険への加入
ハウスクリーニングはプロの専門業者が行う作業ですが、それでも人が行う以上、作業中に誤って物を落として床を傷つけてしまったり、水をこぼして家電を故障させてしまったりといった、予期せぬ事故が起こる可能性はゼロではありません。
そんな万が一の事態に備えて、依頼しようとしている業者がきちんと「損害賠償保険」に加入しているかどうかを確認することは、安心してサービスを利用するために絶対に欠かせないチェックポイントです。
もし業者がこの保険に加入していれば、作業中の事故によって発生した損害(修理費用など)は保険でカバーされるため、依頼者であるあなたが不当な負担を強いられたり、業者との間で大きなトラブルに発展したりするリスクを避けられます。
大手のハウスクリーニング業者の多くは保険に加入していますが、個人経営の業者などでは加入していないケースも見られます。
業者のウェブサイトやパンフレット、見積もり書などに保険加入の有無が記載されているかを確認しましょう。
もし記載がない場合は、必ず電話やメールで直接問い合わせて確認してください。
安心して任せられる信頼できる業者を選ぶためにも、損害賠償保険への加入は必須条件と考え、未加入の業者への依頼は避けるのが賢明といえるでしょう。
選び方(3)実績と口コミ評価を確認
料金やサービス内容と並んで、ハウスクリーニング業者を選ぶ際にぜひ確認したいのが、その業者の「実績」と「口コミ評価」です。
まず、業者の公式ウェブサイトなどをチェックして、これまでにどのようなクリーニング作業を手がけてきたのか、具体的な作業事例、特にビフォーアフターの写真などが豊富に掲載されているかを確認しましょう。
これは、その業者の経験や技術レベルを推し量る一つの目安になります。
次に、実際にその業者を利用したことのある人たちの「生の声」、つまり口コミ評価を調べてみましょう。
インターネット上には、Googleマップのレビュー機能や、様々な業者を比較できる口コミサイト、個人のブログやSNSなど、評判を探るための情報源がたくさんあります。
広告や業者の宣伝文句だけでは分からない、作業の質の高さ、スタッフの対応の良し悪し、料金に対する満足度など、リアルな情報を得られる可能性があります。
ただし、口コミ情報を参考にする際には注意も必要です。
特定の業者だけを極端に良く(または悪く)書いているサイトや、匿名性の高い情報などは、そのまま鵜呑みにせず、複数の情報源を比較検討し、できるだけ具体的で客観的な意見を参考にすることが大切です。
実績と評判を多角的にチェックすることで、より信頼できる業者を見つけやすくなります。
選び方(4)見積もり内容の妥当性
複数のハウスクリーニング業者から見積もりを取り寄せたら、次はそれぞれの内容をじっくりと比較検討し、その「妥当性」を見極める作業が重要になります。
単に合計金額が一番安いという理由だけで業者を決めてしまうのは早計かもしれません。
提示された料金が、依頼したい作業内容や一般的な市場の相場と比較して、本当に見合っているのかを慎重に判断する必要があります。
まず、各社の見積もり書を並べて、同じ作業項目(例えば、浴室クリーニング、エアコン内部洗浄など)に対する単価や、作業全体の合計金額を比較してみましょう。
これまでの章で触れたような一般的な料金相場から、あまりにもかけ離れて高すぎたり、逆に安すぎたりしないかを確認します。
安すぎる場合は、必要な作業が含まれていなかったり、作業の質が低かったりする可能性も考えられます。
また、基本料金に含まれる作業範囲が具体的に明記されているか、自分が依頼したい箇所(例:換気扇の内部まで、窓は外側も含むかなど)がきちんと網羅されているかを確認することも大切です。
「諸経費一式」のような不明瞭な項目が多い見積もりにも注意が必要です。
見積もりは、価格とサービス内容のバランスが取れているか、自分が納得できる内容かを判断するための重要な資料です。
疑問点は必ず業者に確認しましょう。
選び方(5)対応の丁寧さと迅速さ
ハウスクリーニング業者を選ぶ際には、料金の安さや作業内容の充実度だけでなく、問い合わせや見積もり依頼をした際のスタッフの「対応」も、その業者が信頼できるかどうかを見極めるための重要な判断材料です。
気持ちよくサービスを利用し、万が一の際にも誠実に対応してもらうためには、コミュニケーションのスムーズさや安心感が欠かせません。
例えば、以下の点を確認しましょう。
- 電話で問い合わせた際の言葉遣いは丁寧か
- こちらの質問に対して専門用語を多用せず、分かりやすく説明してくれるか
- メールで問い合わせた場合、返信が 遅すぎないか
- 内容は誠実で分かりやすいか
見積もりのために自宅に来てくれたスタッフの身だしなみや態度はどうかスタッフ一人ひとりの対応には、その会社の顧客に対する基本的な姿勢や、社員教育が行き届いているかどうかが表れるものです。
問い合わせの段階から丁寧で迅速、かつ誠実な対応をしてくれる業者は、実際のクリーニング作業も責任を持って行ってくれる可能性が高いと考えられますし、もし作業後に何か気になる点があった場合でも、きちんと話を聞き、適切に対応してくれることが期待できます。
トラブル発生時の具体的な相談窓口
万が一、賃貸物件の退去費用などをめぐり、貸主(大家さんや管理会社)との間で解決が困難なトラブルが生じてしまった場合、一人で抱え込まずに相談できる具体的な窓口が存在します。
この章では、そうした相談窓口やその活用方法について詳しく解説します。
主に以下の内容について掘り下げていきます。
- 無料で相談に応じてもらえる公的な機関とその役割
- 弁護士などの法律専門家へ相談する方法(法テラスの利用など)
- どの窓口に相談する際にも、事前に準備しておくべき書類や情報
無料で相談できる公的機関
賃貸物件の退去時に、原状回復費用やハウスクリーニング費用について貸主と意見が対立し、どうしても解決の糸口が見えないといった困った状況に陥ったとき、まず頼りになるのが無料で相談できる公的な機関です。
これらの機関は、消費者の立場に立って専門的なアドバイスをしてくれたり、場合によっては事業者との間に入って話し合いの仲介(あっせん)を行ってくれたりするため、個人で直接交渉するよりも問題がスムーズに解決に向かう可能性があります。
代表的な相談窓口としては、全国の市区町村や都道府県に設置されている「消費生活センター」があります。
どこに相談すればよいか分からない場合は、まず局番なしの電話番号「188」に電話してみてください。
ここから最寄りの消費生活相談窓口を案内してもらえます。
また、各自治体が独自に、不動産取引や住宅に関する専門の相談窓口(例えば「〇〇県住宅相談センター」のような名称)を設けていることもあります。
これらの窓口では、賃貸借契約に関するトラブル全般について相談に乗ってくれますので、まずは電話などで気軽に問い合わせてみることがおすすめです。
相談料は基本的に無料ですので、安心して利用できます。
専門家への相談方法(法テラス等)
公的な相談機関に相談しても問題が解決しない場合や、契約書の解釈が難しい、あるいは請求内容の法的な根拠が問われるような、より専門的な法律知識が必要となる複雑なトラブルに直面することがあります。
そのような際には、弁護士や司法書士といった法律の専門家に相談することが有効な手段です。
専門家は、個別の状況を法的な観点から分析し、的確なアドバイスをしてくれるだけでなく、必要に応じてあなたの代理人として相手方と交渉したり、さらには少額訴訟などの法的手続きを進める際のサポートも期待できます。
ただし、「弁護士に相談すると費用が高そう…」とためらってしまう方もいらっしゃるかもしれません。
そのような場合は、「法テラス(日本司法支援センター)」の利用を検討してみましょう。
法テラスでは、収入や資産が一定の基準以下であるなどの条件を満たせば、同じ案件について原則3回まで無料で弁護士や司法書士に法律相談ができる「民事法律扶助制度」というものがあります。
また、実際に裁判などを行う場合の弁護士費用や司法書士費用などを立て替えてくれる制度もあります。
まずは法テラスのサポートダイヤルに電話で問い合わせてみるか、お近くの法テラスの事務所に相談してみるとよいでしょう。
費用面で専門家への相談を諦める前に、こうした公的な支援制度が利用できないか確認してみることをおすすめします。
相談前に準備すべき書類・情報
消費生活センターや法テラス、あるいは弁護士など、どのような窓口に退去費用のトラブルについて相談する場合であっても、相談をスムーズかつ効果的に進めるためには、事前にしっかりと準備をしておくことが非常に重要になります。
事前に必要な情報がきちんと整理されていれば、相談員や専門家も問題の状況や核心を迅速かつ正確に把握しやすくなり、より具体的で的確なアドバイスや適切な対応策を示してもらえる可能性が高まります。
また、限られた相談時間を有効に使うためにも、準備は欠かせません。
具体的に準備しておくべき主な書類や情報は以下の通りです。
- 賃貸借契約書のコピー:特約条項が記載されている部分だけでなく、全てのページ
- 入居時の記録:入居時に作成・提出した「現況確認書」や、部屋の状態を記録したチェックリストなど
- 部屋の状況が分かる写真:入居時と退去時の両方の写真で、特に日付が入っているもの
- 費用に関する書類:実際に問題となっている原状回復費用やハウスクリーニングの「請求書(精算書)」と、その詳細な「内訳書」
- やり取りの記録:これまで貸主や管理会社と行ったメールのプリントアウト、手紙のコピー、重要な会話のメモなど、交渉経緯が分かるもの
- 参考資料:もしあれば、参考にした国土交通省のガイドラインのコピーや、比較のために集めたハウスクリーニングの相場に関する資料など加えて、トラブルの発生から現在に至るまでの経緯を時系列で簡単にまとめたメモ
相談を有意義なものにするため、できる限りの資料を整理して持参し、何に困っていて、どのような解決を望んでいるのかを明確に伝えられるように準備しておきましょう。

まとめ
賃貸物件の退去時、原状回復の基本は通常の使用による損耗は貸主負担です。
ハウスクリーニング費用も、契約書の特約が消費者契約法に反し無効な場合も。
国土交通省のガイドラインで自身の負担範囲を確認しましょう。
費用相場を知り、セルフクリーニングや相見積もりで賢く節約も可能です。
契約書の確認や入居時の記録でトラブルを予防し、困ったときは公的機関や専門家へ相談できます。
信頼できる業者の選定も重要なポイントです。
適切な知識と準備で、不当な費用負担を避け、安心して新生活をスタートさせましょう。

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