東京都の原状回復ガイドライン・条例について

東京都の原状回復条例について

賃貸アパートやマンションを退去する際のトラブルが後を絶ちません。「全国消費生活情報ネットワーク・システム」のデータによると、このトラブルに関する相談件数は、2012年以降、全国1万4千件前後で推移しています。

相談内容としては、「退去時に原状回復費用として高額な料金を請求された」「敷金が返金されない」といったものです。

東京都住宅政策本部では、このような賃貸住宅の原状回復に関するトラブルを防止するため、ガイドラインを公開しています。

賃貸住宅トラブル防止ガイドライン

ガイドラインには退去時の原状回復と入居中の修繕について、実用負担に伴う法律上の原則や判例により定着した考え方などが説明されています。

トラブルを未然に防ぐためにも、ガイドラインを用いて事前に入居者へわかりやすく説明するなど、貸主と借主との間で認識の違いを解消することが重要です。

賃貸住宅紛争防止条例

東京都の賃貸受託紛争防止条例では、賃貸住宅の原状回復に関するトラブルを防止するため、原状回復・修繕についての借主の負担や特約について、宅地建物取引業者が具体的に説明することを義務付けています。

条例の対象は都内にある住宅の賃貸借契約で、説明する義務のある内容は次のとおりです。

【条例に基づく説明】

  • ・退去時における住宅の損耗等の復旧について(原状回復の基本的な考え方)
  • ・住宅の使用及び収益に必要な修繕について(入居中の修繕の基本的な考え方)
  • ・実際の契約における賃借人の負担内容について(特約の有無や内容など)
  • ・入居中の設備等の修繕及び維持管理等に関する連絡先

*なお、住宅を借りようとする者が宅地建物取引業者である場合は、書面の交付のみで説明は不要

条例では「原状回復の基本的な考え方」として、原則、借主の故意や過失で住宅に汚れや損傷、キズなどを与えた場合、借主側の負担で原状回復することが義務付けられています。

一方で、借主の故意・過失によって修繕が必要となった場合以外の入居中の経年劣化や自然発生などによる損耗は、貸主側の負担とされています。

ただし、当事者同士の合意に基づいて、原状回復の基本原則を超えない範囲で合理的な理由や必要性があれば、原状回復に関する特約を決めることもできます。

条例及び条例施行規則の改正について(令和4年5月18日施行)

従来「書面の交付」(手渡し又は郵送)が必要とされていた条例に基づく説明書面について、借主が希望する場合等には、電子メールなど電磁的方法による提供が可能になりました。詳細は以下をご覧ください。

東京都住宅対策本部|賃貸住宅紛争防止条例書面の電子メール等による提供の開始について

東京都の原状回復・修繕の費用負担と特約について

原状回復のガイドラインや条例を読んだだけでは、具体的にどのような場合において、貸主、もしくは借主の負担になるか分からないという人も多いことでしょう。ここでは、退去時の原状回復、および入居中の修繕の考え方において押さえておきたいポイントを解説します。

原状回復の費用負担の原則

入居者が賃貸物件を退去するときには、原状回復が必要となります。

ガイドラインでは、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反(善良なる管理者の注意義務)、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義し、その原状回復費用は借主(賃借人)の負担としています。

ここで言う通常の使用とは、「借主が通常の住まい方、使い方をしていても、発生すると考えられるもの」が挙げられます。

たとえば、部屋に貼ったポスターや太陽光によるクロスの変色、テレビや冷蔵庫の背面の電気ヤケなどは通常使用の範囲内です。

一方で、犬や猫などのペットが付けた壁や柱の引っ掻きキズ、タバコによるクロスの焼き焦げ、窓ガラスの結露をそのまま放置して発生させてしまったカビなどは故意・過失、善管注意義務違反にあたり、借主(賃貸人)の負担となります。

借主負担となるケースの一例

  • ・タバコによるクロスの焼け焦げ
  • ・引越作業で生じたフローリングのキズ
  • ・結露の放置によって拡大したカビやシミ
  • ・エアコンからの水漏れを放置して生じた壁や床の腐食
  • ・ペットによるひっかき傷
  • ・清掃を怠ったことによる台所の油汚れやスス
  • ・禁煙の物件で壁紙に付着したタバコのヤニ
  • ・下地ボードの張替えが必要な程度の壁の画びょう・ピン等の穴

退去時の原状回復にかかわる特約

ガイドラインでは次の要件を満たす場合に限り、賃貸借契約書に原状回復にかかわる特別の負担を借主に課す特約を設けることができるとしています。

  1. 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  2. 借主が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  3. 借主が特約による義務負担の意思表示をしていること

契約書に原状回復に関する特約がある場合は、借主にとって不利な内容でないか確認したうえで、具体的に借主が負担する範囲、おおよその金額などについて、納得いくまで説明を求めましょう。

入居中の修繕の費用負担の原則

入居中に経年劣化や自然発生による修繕が必要になった場合、ガイドラインでは原則として修繕費は貸主負担で行うものと定められています。

たとえば電球や蛍光灯、給水や排水のパッキン取り替えなど、小規模で費用負担の少ない修繕に関しては義務付けられているわけではないため、借主が自己負担で修繕を行っても構いませんし、修繕するかどうかも借主側で決めることができます

  • ・壁に貼ったポスターや絵画の跡(下地ボード張替えが不要な程度)
  • ・家具等の設置によるカーペットのへこみ
  • ・日照等による畳やクロスの変色
  • ・テレビや冷蔵庫の背面にできた電気ヤケ
  • ・自然発生によって生じた網入りガラスの亀裂
  • ・エアコン設置による壁のビス穴、跡
  • ・通常の使用の範囲内で壁紙に付着したタバコのヤニ
  • ・設備機器の故障、使用不能(機器の耐用年限到来のもの)

ただし、経年劣化や自然発生による損耗を放置した結果、カビや汚れなど悪化した場合は善管注意義務違反となり、修繕費用は借主負担となります

経過年数による負担割合の変化

経過年数による賃貸人の負担割合については、原状回復ガイドラインは目安として法人税法等による減価償却資産の考え方を採用することとしています。つまり、減価償却資産ごとに定められた耐用年数で残存価値が1円となる直線を描いて、経過年数により賃借人の負担を決定するという考え方です。
この経過年数は部材ごとに考慮される年数が違います。例えば、オフィス、店舗に設置してあるカーペット、クロスなどの耐用年数は6年、木製の戸棚は8年、洗面台などの給排水設備は15年などと定められています。

※国土交通省:原状回復ガイドライン及び2020年4月施行の改正民法による。(賃貸借契約した日時により適応法令が異なる)

入居中の修繕にかかわる特約

ガイドラインでは、原則にかかわらず、貸主と借主の合意により、入居期間中の小規模な修繕については、貸主の修繕義務を免除するとともに、借主が自らの費用負担で行うことができる旨の特約を定めることができるとされています。

特約は賃貸物件によって異なりますので、契約時には特約の内容について実例を挙げてもらうなどして、納得行くまで説明を求めることが重要です。

トラブル防止のために、契約から入居前、入居中の期間の注意ポイント

東京都内の物件における、借主に課せられた原状回復の義務とは、退去の際に、借主の故意・過失や通常の方法に反する使用などによって生じた住宅の損耗やキズ等の原状を回復することであり、その回復に要する費用を負担するのが原則です。

トラブルを防止するためには、原状回復の費用の負担が発生する退去時だけでなく、契約から入居前、入居中のそれぞれの期間で注意することが重要です。

契約から入居前の注意点

POINT1 契約書の原状回復に関する内容について、よく確認する

賃貸借契約を結ぶ場合は、契約の前に東京都の賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明を受けることになります。

「入居時の物件状況確認書」を作成し、契約で定められた借主の原状回復義務の範囲が「原状回復のガイドライン」に沿ったものであるか確認する必要があります。

ここで原状回復等の費用負担の考え方を理解し、自分が結ぶ契約における原状回復等の費用の負担の内容が原則どおりかどうか、特約によって例外的に負担する費用があるのかどうかを確認して、契約を締結するかどうかの判断材料としましょう。

もしその場で納得できない場合は契約を一旦保留して、慎重に検討すべきです。
また原状回復について、退去時の精算方法や様式等を貸主と借主の間で定めておくとよいでしょう。

POINT2 特約の確認

契約書に原状回復に関する特約がある場合には、借主に不利な内容になっていないか必ず確認しましょう。また、借主が負担する範囲、おおよその金額などについて説明を求めましょう。

特約は借主に不利なものであっても、両者納得の上で結ばれた場合は基本的に有効とされます。
だからこそ、疑問に思ったり、納得できなかったりする内容があれば、貸主と話し合い、契約書の内容をきちんと理解し、納得し、必要なら変更を求めるなどした上で契約を結ばなくてはなりません。
特約は賃貸物件によって異なりますので、契約時には特約の内容について実例を挙げてもらうなどして、納得行くまで説明を求めることが重要です。
さらに、入居前にキズや汚れがあるかどうかを確認しておくことは、原状回復をめぐるトラブルを防止する上では非常に大切です。

POINT3 物件状況の確認

入居時と退去時の物件状況を比較できるよう、「入退去時の物件状況及び原状回復確認リストを作成し、貸主の立会いのもと、キズや汚れがどこにあるかをあらかじめ確認しましょう。

※「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」とは、国土交通省が提供しており、入居時と退去時の物件の程度差を明確にすることができるリストです。

入居者、不動産管理会社双方の立ち会いのもと、室内の状況、損耗、汚れ等確認して記録に残し、写真や動画を撮っておくことも、トラブル防止のために有効です。

入居中の注意点

POINT1 契約内容やルールを守って、適切に使用する

退去時の原状回復のトラブルを未然に防ぐためには、部屋を汚したり傷つけたりしないよう注意することが必要で、入居者自身のマナーが何よりも重要です。

POINT2 不具合等が生じた場合は、早めに借主や管理会社などに連絡する

また、入居中に設備の修繕が必要となった場合には、貸主や管理会社などに連絡し、対応について相談するようにしましょう。
放置したままでは、修繕等が必要となった原因が経年劣化や通常使用によるものか、入居者の故意の過失かどうかの判断が難しくなってしまうため、不具合等が生じた時は、早めに対応する必要があります。

退去時の注意点

POINT1 荷物を運び出し、きれいに清掃したうえで、明け渡す

退去時には、入居時・入居中に自分が持ち込んだ荷物はすべて出して、きれいに清掃をした上で明け渡しましょう。
不用になった家具など粗大ごみをそのまま置いていくと、処分に関する負担を敷金から差し引かれることがあります。
また、日常の清掃や退去時の清掃をきちんとしていなかったことが原因で落ちない汚れ等が合った場合は専門のハウスクリーニングが必要となり、その費用を請求されることがあります。

POINT2 借主や管理業者の立ち合いによる物件確認

退去時の物件確認は貸主や管理業者の立会いのもと行います。
入居時に作成した「入居時の物件状況確認書」や「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」と比較しながら、借主の故意・過失、通常の使用方法に反する使用など借主の責任によって生じた損耗等、また、特約上の修繕箇所があるかどうかを確認し、「退去時の物件状況確認書」を作成します。

POINT3 明細書の内容の確認

多くの場合、実際の原状回復費用は物件を明け渡した後、清掃業者などの見積りが出てから明らかとなります。
見積もりが出たら明細書をもらい、立会いの時に確認した内容と一致しているか、しっかりと確認します。
明細書の内容に納得できない点があれば、貸主や管理業者に連絡を取り、説明を求めましょう。