【保存版】テナント原状回復ガイドライン&判例集|費用相場も解説
テナント退去時の原状回復で、「どこまで自分負担なのか」「敷金はきちんと返ってくるのか」と悩んでいませんか?
テナント契約は居住用と違い、ガイドラインや経年劣化の考え方、特約の内容によって原状回復の範囲が大きく変わります。
オーナーとの認識の違いから、高額な費用請求が発生するケースも少なくありません。
本記事では、テナントの原状回復における契約書の読み解き方から、壁紙(クロス)・床・エアコン・看板などの具体的な対応、スケルトン化の費用相場、業者選定のポイントまで徹底解説します。
判例や例文も交えながら、解約時のトラブルを未然に防ぐ方法をお伝えします。
オーナーとの良好な関係を維持しつつ、不当に高額な請求を回避するためのポイントも紹介します。
この記事を読めば、賃貸テナントの退去時に必要な知識が身につき、余計な費用負担を抑えながらスムーズに原状回復を進められるようになるでしょう。
目次
テナントの原状回復とは?~賃貸借契約の基本と費用相場~
この章では、テナント退去時に必要となる原状回復の基本的な考え方と費用相場について解説します。
テナントの原状回復には主に以下の内容があります。
- テナント契約における原状回復義務の基本的な考え方と範囲
- 「原状回復」と「スケルトン戻し」の違いと契約上の注意点
- 壁紙(クロス)・床・天井・看板など具体的な原状回復対象と費用目安
- 居住用物件とテナント物件の原状回復における経年劣化の考え方の違い
テナントの原状回復義務とは?「どこまで」戻す必要があるのか
テナントの原状回復義務とは、借りていた物件を退去する際に、契約開始時の状態に戻して返却する義務のことです。
この原状回復の範囲は、賃貸借契約書に記載されている内容が最も重要な判断基準となります。
一般的に、テナントが事業のために設置した内装や設備の撤去、壁や床の補修などが含まれます。
具体的には、間仕切りやカウンター、棚などの造作物の解体・撤去、厨房設備や美容室の特殊設備、オフィスで使用していたLAN配線などの撤去、床・壁・天井の傷や汚れの修繕、照明器具の復旧、水回りの清掃、エアコンクリーニングなどが対象となることが多いです。
原状回復工事で発生した産業廃棄物の処理も借主の責任となります。
原状回復の範囲については、入居前に契約書を詳細に確認し、不明な点があれば貸主(オーナー)と協議しておくことが重要です。
また、入居時の物件状態を写真や動画で記録しておくことで、退去時のトラブルを未然に防ぐことができます。
原状回復義務の範囲を明確にすることで、予期せぬ高額費用の発生を避けることができるでしょう。
「原状回復」「スケルトン戻し」の違いとテナント特有の注意点
テナント物件における「原状回復」と「スケルトン戻し」は明確に区別する必要があります。
「原状回復」は契約開始時の状態に戻すことを意味し、入居時に設備や内装がある状態だった場合は、その状態に戻すことが基本です。
一方、「スケルトン戻し」は内装や設備をすべて撤去し、コンクリート打ちっぱなしの骨組みだけの状態に戻すことを指します。
テナント契約では、この「スケルトン戻し」が求められるケースが多く存在します。
特に、入居時にスケルトン状態だった物件では、退去時も同様の状態に戻すことが原則です。
スケルトン戻しには、内装の解体費用だけでなく、電気配線や給排水設備の撤去・復旧、産業廃棄物処理など、高額な費用がかかります。
一般的に、原状回復の費用は、小規模オフィスで坪単価3~5万円程度、スケルトン戻しでは坪単価5~10万円程度かかると言われています。
ただし、これはあくまで目安であり、物件の規模、立地、内装、設備、工事業者によって大きく変動します。
また、「居抜き物件」を借りた場合は、前テナントの内装や設備をそのまま利用できるメリットがありますが、退去時にどのような状態に戻すべきかを契約時に明確にしておくことが重要です。
契約書に「スケルトン戻し」の記載がある場合は、退去時の費用を事前に見積もっておき、資金計画に組み込んでおくことをお勧めします。
【図解】テナント原状回復の範囲(壁紙(クロス)・床・天井・看板など)
テナントの原状回復は多岐にわたる箇所が対象となります。
まず壁紙(クロス)については、通常の汚れは清掃で対応できることが多いですが、破損や著しい汚れがある場合は張り替えが必要です。
費用の目安は、クロスのグレードにもよりますが、量産品クロスであれば1㎡あたり1,000〜1,500円程度、一般品(中級品)クロスであれば1㎡あたり1,500〜2,500円程度が相場です。
床材については、軽度の傷は部分補修で対応できることもありますが、重度の損傷や広範囲の汚れがある場合は張り替えが必要となります。
費用の目安は、床材の種類によって大きく異なり、例えば、タイルカーペットであれば1㎡あたり3,000〜6,000円程度、長尺シートであれば1㎡あたり4,000〜8,000円程度です。
フローリングであれば1㎡あたり8,000〜15,000円程度となることが多いです。
天井に関しては、照明器具の交換や位置変更、増設などを行った場合、元の状態に戻す必要があります。
費用は、照明器具の種類や数、天井の高さ、下地の状況などによって大きく異なりますが、一般的なオフィスや店舗の場合、5〜15万円程度が目安となることが多いです。
ただし、特殊な照明器具や高天井の場合は、さらに費用がかかることがあります。
店舗の看板は、撤去と壁面の修復を合わせて5〜20万円が一般的な費用です。
ただし、看板の種類(袖看板、ポール看板、壁面看板など)や大きさ、設置場所、建物の構造、撤去作業の難易度などによって費用は大きく変動します。
高所作業車が必要な場合や、特殊な工具が必要な場合は、追加費用が発生することもあります。
業務用エアコンについては、メーカーや機種、設置状況、配管の長さなどによって撤去費用が異なりますが、1台あたり2〜5万円程度が目安です。
家庭用ルームエアコンの場合は、1台あたり1〜2万円程度が目安となります。
エアコンを残置する場合は、内部クリーニングが必要となることが多く、費用の目安は1台あたり1〜3万円程度です。
また、間仕切りやカウンターなどの造作物の撤去費用は、規模や材質によって大きく異なりますが、10〜50万円程度を見込んでおくと良いでしょう。
水回りの設備については、厨房機器の種類や量、給排水管の状況、床や壁の防水処理の有無などによって、撤去・原状回復費用が大きく異なります。
15〜40万円程度はあくまで目安であり、小規模な飲食店から大規模なレストランまで、その費用は大きく変動します。
場合によっては100万円を超えるケースもあるでしょう。
これらの費用は物件の規模や状態、地域によって変動するため、複数の業者から見積もりを取ることをお勧めします。
また、業者選定の際は、実績や評判、アフターサービスなども考慮して選ぶことが重要です。
対象箇所 |
主な原状回復内容 |
費用目安 |
費用変動要因・注意点 |
壁紙(クロス) |
通常汚れ:清掃 破損・著しい汚れ:張り替え |
張り替え: ・量産品: 1,000〜1,500円/㎡ ・一般品: 1,500〜2,500円/㎡ |
クロスのグレードにより変動 |
床材 |
軽度傷:部分補修 重度損傷・広範囲汚れ:張り替え |
張り替え: ・タイルカーペット: 3,000〜6,000円/㎡ ・長尺シート: 4,000〜8,000円/㎡ ・フローリング: 8,000〜15,000円/㎡ |
床材の種類により大きく変動 |
天井 |
照明器具の交換・位置変更・増設 → 元の状態に戻す |
5〜15万円程度 (オフィス/店舗) |
・照明の種類/数、天井高、下地状況で変動 ・特殊照明、高天井は追加費用あり |
看板 |
撤去 + 壁面修復 |
5〜20万円程度 |
・看板の種類/大きさ/設置場所、建物構造、難易度で変動 ・高所作業車、特殊工具で追加費用あり |
エアコン |
撤去or 残置 (クリーニング要) |
撤去: ・業務用: 2〜5万円/台 ・家庭用: 1〜2万円/台 クリーニング: ・1〜3万円/台 |
撤去:メーカー/機種/設置状況/配管長さで変動 |
間仕切り・カウンター等 造作物 |
撤去 |
10〜50万円程度 (目安) |
・規模、材質により大きく変動 |
水回り設備 |
厨房機器、給排水設備等の 撤去・原状回復 |
15〜40万円程度 (目安) |
・機器の種類/量、配管状況、防水処理有無、規模で大きく変動 ・100万円を超えるケースも |
居住用物件との違い:テナントの原状回復で「経年劣化」は考慮される?
居住用物件とテナント物件では、原状回復における「経年劣化」の扱いに大きな違いがあります。
居住用物件では、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づき、通常の使用による損耗や経年劣化は貸主負担が原則とされています。
これは、日常生活に伴う自然な劣化は家賃に含まれているという考え方に基づいています。
しかし、テナント物件の場合は明確なガイドラインがなく、契約書の内容が最優先されます。
多くのテナント契約では、通常損耗や経年劣化についても借主が原状回復義務を負う旨の特約(「通常損耗補修特約」など)が設けられています。
これは、事業目的での使用は、不特定多数の人の出入りや業種特有の設備使用により、損耗の程度が居住用に比べて大きくなることが予想されるためです。
過去の裁判例でも、テナント物件において通常損耗を借主負担とする特約の有効性が認められる傾向にあります。
そのため、テナント契約を結ぶ際には、経年劣化に関する条項を注意深く確認し、可能であれば「通常の使用による経年劣化は貸主負担」という文言を入れることを検討すると良いでしょう。
また、入居時の状態を詳細に記録しておくことで、退去時に不当な請求を受けた場合の交渉材料となります。
契約期間中も定期的なメンテナンスを行うことで、大規模な修繕を避けることが可能です。
テナント原状回復の費用を抑えるには?~業者選びと契約書の確認~
この章では、テナント退去時の原状回復費用を効果的に抑える方法について紹介します。
テナント原状回復の費用削減には主に以下の内容があります。
- 原状回復にかかる一般的な費用相場と費用内訳の把握
- 信頼できる業者選びのポイントと指定業者に関する交渉術
- 見積もり比較で実現できるコスト削減と設備別の具体的な対応策
- 契約書における原状回復特約の読み解き方と費用削減のための交渉ポイント
テナント原状回復の「費用」相場と内訳を徹底解説
テナント退去時の原状回復費用は、物件の種類や規模、使用状況によって大きく異なります。
テナントの原状回復費用は、物件の規模、業種、立地、内装・設備の状態、そして依頼する業者によって大きく異なります。
一般的な相場としては、小規模オフィス(20坪程度)で坪単価3〜5万円、飲食店や美容室など設備を多く使用する業種では坪単価5〜10万円程度が目安となります。
スケルトン戻しが求められる場合は、さらに高額になることが予想されます。
費用の内訳は、内装解体、設備撤去、造作物の撤去、床・壁・天井の補修、クリーニング、廃棄物処理などが主な項目ですが、その割合は物件の状態や工事内容によって大きく変動します。
特に注意すべきは、物件の元の状態によって費用が大きく変動する点です。
居抜き物件を借りていた場合、前テナントから引き継いだ設備の撤去義務があるかどうかで費用が倍近く変わることもあります。
また、物件の広さに比例して費用も増加する傾向がありますが、単純な面積比ではなく、設備の種類や内装の状態が大きく影響します。
原状回復費用を正確に把握するためには、契約書の確認と複数業者からの見積もり取得が欠かせません。
退去計画を立てる際は、これらの相場を念頭に置きながら、十分な資金準備をしておくことが重要です。
原状回復「業者」選びのポイント:指定業者以外は選べ「ない」?
多くのテナント契約では、原状回復工事を行う業者を貸主や管理会社が指定していることがあります(「指定業者条項」)。
しかし、契約書に「指定業者を使用すること」が絶対条件として明記されていない場合や、「借主は、貸主の承諾を得て、指定業者以外の業者に原状回復工事を発注することができる」といった条項がある場合は、交渉の余地があります。
指定業者を利用すると安心感はありますが、見積もりが市場相場より高額になっているケースも少なくありません。
原状回復業者を選ぶ際の重要なポイントは、テナント原状回復の実績があること、見積もりが詳細で透明性があること、アフターフォローがしっかりしていることです。
信頼できる業者を見つけるには、同業者からの紹介や口コミサイトの評価を参考にすると良いでしょう。
業者選定の際は、2〜3社から見積もりを取得し、内容と金額を比較検討することが大切です。
指定業者以外を使いたい場合は、「複数の見積もりを取得した結果、同等の品質でより適正な価格の業者が見つかった」と丁寧に説明し、交渉してみましょう。
貸主側も合理的な提案であれば受け入れてくれることが多いです。
ただし、ビルの構造に関わる部分など、建物全体への影響が大きい工事については、指定業者を利用した方が安全な場合もあります。
見積もり比較でコスト削減!「エアコン」など設備別の注意点
エアコンの撤去費用は、機種、設置場所、配管の状況などによって異なり、業者によって価格設定も大きく異なります。
業務用エアコンの場合、1台あたり2〜5万円程度が目安ですが、複数台ある場合は一括依頼することで割引が適用されることもあります。
また、契約内容や貸主との交渉によっては、エアコンを撤去せずにクリーニングのみで対応できる場合もあるでしょう。
家庭用エアコンの場合は、業務用エアコンよりも安価になることが一般的です。
内装(壁・床・天井)に関しては、全面張替えと部分補修では費用差が大きいため、実際の損傷状況に応じた適切な対応を見積もりに反映させましょう。
看板や造作については、撤去と廃棄を別々の業者に依頼することで費用削減が可能な場合もあります。
見積もり比較の際は、同一条件での比較が重要です。
工事範囲や施工方法、廃材処理費用などの詳細を明確にし、各業者の見積もり内容を項目ごとに比較表にまとめると分かりやすくなります。
異常に高い・安い項目があれば、その理由を確認することも大切です。
また、自分でできる簡単な作業(清掃や小物の撤去など)は自分で行い、専門的な工事だけを業者に依頼することで、総費用を抑えることもできます。
複数の見積もりを取ることで、適正価格の把握と交渉材料の獲得が可能になります。
【重要】「契約書」の確認:原状回復に関する「特約」「例文」集
テナント原状回復費用を抑えるための最も重要なステップは、契約書における原状回復特約を正確に理解することです。
テナント契約では、原状回復の範囲や方法について詳細な特約が設けられていることが一般的で、この内容が最終的な費用に大きく影響します。
まず確認すべきは「通常損耗」「経年劣化」の扱いです。
居住用物件では、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」により、通常損耗は貸主負担が原則です。
しかし、テナント契約では「借主は通常損耗も含めて原状回復の責任を負う」(通常損耗補修特約)という特約が多く見られます。
このような特約がある場合、退去時に高額な費用負担が発生する可能性があります。
次に注目すべきは「原状回復」の定義です。
「入居時の状態に戻す」のか「スケルトン状態に戻す」のか、具体的にどこまでの範囲が含まれるのかを明確にしておくことが重要です。
特約の具体例としては、
- 「経年劣化による損耗は貸主の負担とする」
- 「〇年以上の長期契約の場合、原状回復費用の一部(〇%または〇〇円)を貸主が負担する」
- 「原状回復の範囲は、甲乙別途協議の上決定する」
などがあります。契約前にこれらの条件について交渉することも可能ですが、契約内容によっては、借主の希望が通らないこともあります。
契約前であれば、これらの条件について交渉することも可能です。
すでに契約中の場合は、更新時に条件の見直しを提案したり、退去計画の早い段階で原状回復の範囲について貸主と協議したりすることをお勧めします。
不明点や疑問点がある場合は、弁護士や不動産専門家に相談することも検討しましょう。
契約書の確認と理解は、将来的な費用負担を大きく左右する重要なポイントです。
テナント原状回復トラブルを防ぐ!~判例・ガイドライン・解約手続き~
この章では、テナント退去時に発生しがちな原状回復トラブルを未然に防ぐための実践的な方法について紹介します。
テナント原状回復トラブルの防止策には主に以下の内容があります。
- 敷金返還トラブルの原因と具体的な予防策
- ガイドラインや判例の知識を活用した効果的な交渉方法
- 解約から退去までの適切なスケジュール管理と重要なチェックポイント
- 法的紛争に発展させないための事前対策と合意形成のコツ
「敷金」返還トラブルを避ける!原状回復の範囲で揉めないために
テナント退去時に最も多いトラブルが、敷金返還に関する問題です。
多くの場合、「原状回復の範囲」についての認識の違いから発生します。
敷金は原状回復費用に充当されますが、どこまでが借主負担の原状回復なのかが明確でないと、返還額をめぐって大家や管理会社と対立する可能性があります。
敷金返還トラブルを避けるための最も効果的な方法は、入居時の物件状態を写真や動画で詳細に記録しておくことです。
特に壁や床、設備などの状態を細かく撮影し、日付入りで保存しておきましょう。
次に重要なのは、契約書の敷金関連条項を正確に理解することです。
「原状回復の範囲」「経年劣化の扱い」「敷金の返還時期や方法」などを確認しておきましょう。
そして退去の2~3ヶ月前には、貸主(または管理会社)と原状回復の範囲について事前に協議することが重要です。
協議を開始する時期は、契約書で定められている解約予告期間なども考慮して、余裕をもって設定しましょう。
この際、入居時の記録を基に具体的な範囲を確認し、合意内容を議事録や覚書などの書面で残しておくと安心です。
退去時には必ず立会い確認を行い、原状回復工事の完了後に敷金精算書を受け取り、内容を確認しましょう。
不当な請求があれば、証拠を基に冷静に交渉することが大切です。
これらのステップを踏むことで、敷金返還トラブルのリスクを大幅に減らすことができます。
「原状回復」に関する「ガイドライン」と「判例」から学ぶ交渉術
テナント原状回復に関する交渉では、ガイドラインと判例の知識が強力な武器になります。
まず知っておくべきなのは、居住用物件には国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」がありますが、テナント物件には明確なガイドラインがないという点です。
しかし、小規模オフィスなど居住用に近い使われ方をしている物件では、このガイドラインの考え方が参考にされることもあります。
テナント物件では基本的に契約書の内容が最優先されますが、過去の判例では「特約の有効性」や「通常損耗の負担」について様々な判断が示されています。
例えば、通常損耗について「特約があっても負担範囲が不明確な場合は借主負担とならない」とした判例は、交渉の際に有力な根拠となります。
効果的な交渉のポイントは、「経年変化」と「故意・過失による損傷」を明確に区別することです。
壁紙(クロス)の日焼けや自然退色などの経年変化については、テナント契約でも負担減免を求める余地があります。
交渉の際は感情的にならず、契約書や写真などの証拠、そして関連する判例の知識に基づいて冷静に話し合うことが重要です。
特に「通常の使用による経年劣化」の部分については、判例を引用しながら交渉することで、不当な請求を減額できる可能性があります。
難しい交渉の場合は、弁護士や不動産鑑定士などの専門家の意見を取り入れることも検討しましょう。
「テナント」「解約」時の原状回復スケジュールと注意点
テナント解約時の原状回復は、居住用物件よりも複雑で時間がかかるため、計画的なスケジュール管理が非常に重要です。
理想的なスケジュールとしては、まず退去の6ヶ月前頃に退去の意思決定と全体計画を立てることから始めましょう。
次に、契約書で定められた予告期間(通常3~6ヶ月前)に従って、貸主への退去通知を行います。
この際、書面で通知し、受領確認を得ておくことが安心です。
退去の2~3ヶ月前には、複数の業者から見積もりを取得し、業者を選定します。
同時に、貸主と原状回復の範囲について協議を始め、合意を形成していきます。
退去の1~2ヶ月前から原状回復工事を開始し、契約終了日までに完了させることが重要です。
退去日当日は、貸主または管理会社立会いのもと最終確認を行い、鍵を返却します。
このスケジュールを進める際の注意点として、ビルの管理規則(工事可能時間、騒音制限など)を事前に確認しておくことが重要です。
また、廃棄物処理のルールや他テナントへの配慮も忘れてはいけません。
工事の進捗を定期的に確認し、遅延が生じないよう管理することで、追加の賃料負担や違約金の発生を防ぐことができます。
特に商業ビルでは工事時間が制限されていることが多いため、十分な余裕を持ったスケジュールを組むことが不可欠です。
原状回復義務をめぐる「裁判」に発展させないための事前対策
テナントの原状回復義務をめぐるトラブルが裁判に発展すると、時間的・金銭的コストが膨大になります。
そのため、事前対策と丁寧な交渉による合意形成が極めて重要です。
裁判を避けるための第一のポイントは、契約締結前の十分な確認と交渉です。
原状回復条項、特に「通常損耗の扱い」や「スケルトン戻しの定義」について、曖昧な部分があれば明確化を求め、必要に応じて条件の修正を交渉しましょう。
次に重要なのは、入居時の物件状態の詳細な記録です。
写真や動画で細部まで記録し、日付入りで保存。
できれば貸主との共有や確認も行っておくと安心です。
入居中は定期的な物件管理とメンテナンスを行い、大規模な修繕が必要になる事態を避けることも大切です。
退去の意向を伝える際には、原状回復についても早めに協議を始め、範囲と費用について書面で合意を取り交わすことがトラブル防止に効果的です。
原状回復工事の各段階でも貸主や管理会社との確認を行い、認識のずれが生じないよう注意しましょう。
これらの対策を講じても解決が難しい場合は、早めに専門家(弁護士・不動産コンサルタントなど)に相談することも検討すべきです。
裁判になると勝敗に関わらず大きな負担が生じるため、事前の丁寧な対応と合意形成に努めることが、結果的に最も賢明な選択となります。
【ケース別】テナント原状回復の疑問を解決!
この章では、テナント原状回復に関する様々な状況別の疑問について解決策を紹介します。
テナント原状回復の疑問解決には主に以下の内容があります。
- 居抜き物件特有の原状回復問題と前テナント造作物の取り扱い
- 業種によって異なる原状回復の特徴とコスト削減のヒント
- 原状回復工事中に起こりやすいトラブルとその未然防止策
居抜き物件の「原状回復」:前のテナントの造作は誰が負担?
居抜き物件の原状回復で最も悩ましいのが、前テナントの造作物の取り扱いです。
居抜き物件とは、前のテナントが使用していた内装や設備がそのまま残された状態で賃貸される物件のこと。
入居時の初期費用を抑えられるメリットがある反面、退去時の原状回復義務の範囲が不明確になりやすいという特徴があります。
前テナントの造作物の撤去費用負担については、基本的に賃貸借契約書の記載内容が最優先されます。
契約書に「入居時の状態で返還」と記載されていれば、居抜き状態のまま退去できますが、「スケルトン状態で返還」と明記されていれば、前テナントの造作物も含めて全て撤去する必要があります。
また、入居時に「この棚は残して良い」など個別に合意している場合は、その内容が優先されますが、口頭での合意は後々トラブルの元になるため、必ず書面に残しておくことが重要です。
居抜き物件の原状回復トラブルを避けるためには、契約前に「退去時にどのような状態にすべきか」を明確に確認し、入居時に前テナントの造作物をリスト化して写真で記録しておくことをお勧めします。
特に高額な撤去費用がかかりそうな固定設備については、契約前に念入りに確認しましょう。
オフィス・店舗・クリニック…業種別原状回復のポイント
テナントの業種によって原状回復の内容や費用は大きく異なります。
オフィスの場合、主な原状回復対象は間仕切りの撤去、OAフロアの原状回復、ネットワーク配線の撤去などです。
費用相場は20坪程度で20~40万円が一般的ですが、特殊な内装や大量の固定家具がある場合は上がります。
飲食店の場合は原状回復費用が高額になりやすく、厨房設備、排気ダクト、グリーストラップ、防水工事などが主な対象となります。
特に油汚れの除去や臭気対策には手間がかかるため、30坪程度で80~150万円程度の費用を見込んでおくと良いでしょう。
クリニックの場合は医療用特殊設備や特殊壁材、給排水設備の原状回復が必要で、40坪程度で100~200万円程度かかることが多いです。
特に放射線関連設備がある場合は専門的な処理が必要になります。
業種別の原状回復対策としては、入居前に業種特有の設備について原状回復義務の範囲を確認し契約書に明記すること、定期的なメンテナンスを行い大規模修繕を避けること、設備によっては次のテナントへの「買取」や「居抜き譲渡」の可能性を探ることが効果的です。
また、業種に詳しい専門業者に見積もりを依頼し、適正価格を把握することも重要です。
原状回復工事中のトラブル事例と対策(騒音・時間制限など)
原状回復工事中には様々なトラブルが発生しがちです。
最も多いのが「騒音トラブル」です。
大型設備の撤去や解体作業による騒音で他テナントから苦情が寄せられ、工事の中断を余儀なくされることがあります。
次に多いのが「時間制限問題」で、商業ビルでは騒音を伴う工事が早朝・夜間・休日のみに限定されることが多く、この制限を知らずに工事を計画すると大幅な遅延が生じる可能性があります。
また、「エレベーター使用」のトラブルも頻発します。
大型廃材搬出時にエレベーターを長時間占有することで他テナントの業務に支障をきたすケースです。
さらに「廃材置き場」の確保ができず工事が滞ったり、電気工事による「予期せぬ停電」で他テナントに迷惑をかけたりするケースもあります。
これらのトラブルを避けるためには、工事前にビルの管理規則(工事可能時間、騒音制限、エレベーター使用ルールなど)を確認し、工事計画を管理会社に提出して承認を得ることが重要です。
また、他テナントへの影響が大きい工事は事前に通知や挨拶を行い、予備日を設けた余裕のあるスケジュールを組むことで、突発的な問題にも対応できるようにしておきましょう。
まとめ
テナントの原状回復は住居用と異なり、契約書の特約が最優先されるため、契約前の確認が重要です。
国土交通省のガイドラインは参考にはなりますが、テナントでは法的拘束力が弱いことを理解しておきましょう。
原状回復の範囲は「通常の使用による損耗」と「故意・過失による損傷」を区別し、経年劣化も考慮されます。
どこまでが借主負担なのかについては、過去の判例も参照しながら契約内容を確認することが重要です。
費用を抑えるには、相場を把握した上で複数業者から見積もりを取得し、指定業者制度の有無を確認しましょう。
居抜き・スケルトンなど物件状態によって退去時の負担も変わります。
敷金返還トラブルを避けるため、入居時の状態を写真や書面で記録し、退去前には管理会社と原状回復範囲について事前協議することをおすすめします。
適切な準備で無駄な支出を避け、スムーズな退去が可能です。
«前へ「原状回復どこまで必要?賃貸・店舗・オフィス別に徹底解説!」 | 「損しない退去術!原状回復工事の費用相場はいくら?」次へ»