飲食店の退去時に原状回復は絶対に必要?店舗の原状回復で抑えておきたいポイント
飲食店の退去や移転の際には、必ず原状回復工事が必要です。
退去後の営業や移転先の店舗の立ち上げなど重要な事柄も多いなか、明け渡す物件について考えなければならないのは、飲食店経営者の方にとっては非常に悩ましいことではないでしょうか?
しかし、事業用物件の賃貸借契約期間において、原状回復をめぐるトラブルがもっとも起こりやすいというのも事実。決して軽視できないのが飲食店の原状回復工事なのです。
今回は飲食店の原状回復工事をクローズアップ、退去時に確認すべきポイントや工事費用の相場について解説いたします。
目次
飲食店の退去時に、原状回復は絶対に必要?
原状回復工事とは、物件を入居前の状態に戻すことです。飲食店に限らず、店舗やオフィスを退去する賃借人は、民法545条1項に定められている原状回復義務を負います。
(解除の効果)
第五百四十五条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
引用:民法|e-Gov
事業用物件は契約期間内に原状回復工事を行う必要があり、賃貸契約終了時になっても原状回復工事が行われていない場合は明け渡しができません。
入居の際には退去時にどのような原状回復工事を行うことになるか、しっかりと確認しておくことが必要です。
事業用と居住用の原状回復の違い
事業用物件の原状回復の範囲は、居住用とは異なります。店舗やオフィスを借りて飲食店を営業している経営者や経営担当者は、原状回復のトラブルが生じないよう異なる点について理解しておく必要があります。
原状回復範囲の違い
自然損耗や経年劣化など、生活をしていく上で避けられない通常の損耗に対する扱いが異なります。
居住用物件の通常損耗は賃貸人負担となっていますが、事業用物件の場合はすべての損耗について賃借人が原状回復義務を負います。
居住用物件の場合は、賃借人によって物件の使用方法が大きく変わらないため、あらかじめ原状回復費用が賃料に含まれています。
一方、事業用物件は賃貸人の行う事業によって物件の使用方法が大きく変わるため、あらかじめ賃料に組み込むことができません。通常損耗の予想が難しいことや、自社の業種によって物件を作り変えるケースが多いことから、事業用物件は通常の損耗も原状回復の範囲に含まれています。
つまり、事業用物件の原状回復は原則100パーセント賃借人負担となるのです。
原状回復工事内容の違い
居住用物件の原状回復工事の内容は、クロスの貼り替えやハウスクリーニングなど簡易的な工事がほとんどですが、事業用物件の場合は賃貸契約書の内容によって、内装解体工事やスケルトン工事など原状回復工事の内容と規模が異なります。
とくに飲食店はカウンターや収納棚、厨房のスペースなど事業形態に合わせて店舗の内装を大きく変えるケースが多いため、退去時に「居抜き」の状態で良い場合もあれば、建物の構造物以外の内装をすべて撤去するスケルトン工事が求められる場合もあります。
賃貸契約時には必ず契約書に目を通し、内容、規模も確認しておきましょう。
原状回復工事のタイミングの違い
居住用物件の場合は、賃貸契約期間後に業者側で原状回復工事が行われます。一方の事業用物件の場合は賃貸契約期間中に賃借人側で業者を手配し、原状回復工事を行う必要があります。
退去のスケジュールを間違えると明け渡し前に原状回復工事が終わらず、賃貸人との間でトラブルとなる可能性があるため充分に注意しましょう。
飲食店の原状回復で気をつけたいポイント
汚れやすい使用状況での「通常損耗」の範囲
厨房で油を大量に使うような飲食店の場合、床や壁、天井に油が付着して通常よりも早く傷むことがあります。また喫煙可の飲食店であれば、タバコのヤニやニオイが付着します。
以下のケースのように飲食店は何を通常損耗とするかの判断がつきにくいため、すべての損耗について原状回復義務が生じます。
- ・油汚れ
- ・タバコのヤニやニオイ
- ・照明器具の跡
- ・既存設備の破損
- ・カーペットのシミやカビ
- ・床のサビ跡
- ・結露により発生したカビ
- ・クーラーの水漏れによって生じた壁や天井の腐食
「原状回復の特約」が定められている場合
居住用の物件の原状回復については、国土交通省が作成している「原状回復ガイドライン」が基準となります。一方で、飲食店も含めた事業用物件の原状回復については、ガイドラインよりも契約書の特約がより強い効力を持ちます。
民法上、賃貸人と賃借人の合意によってガイドラインとは別に特約を定めることができます。前述の通り、賃借人の事業内容によって物件の使用方法が大きく変わる事業用の物件では、賃貸借契約において賃借人の原状回復義務の範囲を広くする特約条項が含まれるケースが少なくありません。
したがって、賃貸借契約を結ぶ際に契約書の内容をしっかりと確認しておかなければ、退去時になって原状回復をめぐるトラブルに発展してしまう可能性があります。
入居時の状態と退去時の状態が異なる
原状回復は「入居前の状態に戻すこと」ですが、事業用物件では必ずしもそのとおりではないケースがあります。とくに飲食店はカフェなのか焼肉店なのか、洋食なのか中華料理なのかなど、飲食店の種類によって店舗の損耗度合いが異なるため、入居前と退去時の原状回復が異なるケースも少なくありません。
たとえば、以前に入居していたお店も飲食店であったため、「居抜き」で借りたテナントが、退去時も「居抜き」で良いかと言えば必ずしもそうとは限らず、スケルトン工事が必要な場合もあります。
入居の際には退去後にどのような原状回復が求められるのかをしっかりと確認しておくことが重要です。
原状回復時に確認しておくポイント
原状回復業者に指定はないか確認する
開業後や店舗移転などの際には、原状回復の指定業者について考える必要があります。一般的に原状回復工事は賃貸人が指定する業者で行わなければならないという成約があり、賃貸借契約にその旨が記載されています。
ただし、賃貸借契約にサインしてから工事業者の変更は難しいものの、賃貸人との交渉次第では指定業者の変更が可能な場合もあります。交渉が可能な場合は賃貸人とよく話し合い、お互いが納得の行く業者を選ぶことが大切です。
近隣や建物の制約を確認する
物件の近隣の建物によっては原状回復工事について制約を受ける場合があります。
たとえば周囲の店舗が営業中の場合は原状回復工事が行えないため、店舗の閉店時や夜間に限定されることもあります。
いざ原状回復工事というタイミングで制約により工事ができないとなれば、工事業者にも迷惑がかかることになります。工事の時期がズレたり、余計な費用をかけないようにするためにも事前に条件を確認しておきましょう。
敷金の返還時期を確認する
事業用物件の解約手続きでは、敷金・保証金の精算が行われます。
敷金からは原状回復費や損害額が差し引かれ、残りは全て返還されますが、事業用物件の場合は退去から3ヶ月~6ヶ月後以内に敷金が返還されるケースが多く、居住用物件と比べて返還までに長い期間が設定されています。
なぜなら、事業用物件は居住用物件と比べて、賃貸人が想定していない使い方をする可能性が高く、確認のために比較的長く期間を取る必要があるからです。
返還される敷金を店舗移転の費用に充てる予定があったりすると、返還時期が間に合わず移転費用の捻出に悩んでしまうことになりかねません。敷金の返済時期は原則契約書に記載されていますが、具体的な時期が明記されていない場合は賃貸人に確認しましょう。
飲食店の原状回復の相場
飲食店の原状回復工事の費用は、居抜きの状態に戻すだけで良かったり、スケルトン状態まで戻す必要があったりして一概に相場を出すことは難しいですが、おおよその目安として1坪あたりの原状回復費用の相場を以下にまとめてみました。
店舗の坪数 | 1坪あたりの原状回復費用の相場 |
10坪未満(13~14席程度の小規模店舗) | 1万1667円~ |
10~20坪(15~30席程度の小規模店舗)/td> | 2万1563円~ |
21~30坪(31~45席程度の中規模店舗) | 2万3636円~ |
31~40坪(46~60席程度の中規模店舗) | 2万3056円~ |
41~50坪(61~75席程度の中規模店舗) | 2万1667円~ |
51坪以上(大規模店舗) | 4万8750円~ |
10~50坪の一般的な小・中規模店舗の原状回復費用は2万円弱です。50坪を超える大規模店舗となれば、原状回復費用も4万円台に跳ね上がります。
原状回復工事の費用は店舗のタイプや立地、飲食店の種類などさまざまな要素で増減しますが、以下のような要素であれば退去前のハウスクリーニングや修理の費用を抑えられるでしょう。
- ・パーテーションや造作物が少ない
- ・居抜きの厨房設備の位置や大きさを変更していない
- ・排水設備や排気設備の状態が良い
- ・壁材や床材の損耗が少ない
- ・店内を禁煙にしていた
原状回復費用を安く済ませられる店舗の例としては、カフェや喫茶店などの軽飲食店、テイクアウト中心で人の出入りが少ないタイプの飲食店などが挙げられます。
一方で、焼肉店のように排気ダクトの数が多く複雑な構造をしていたり、店舗が地下や2回以上にあって搬入搬出がしにくかったりする場合は原状回復費用が高めになる傾向にあります。
まとめ
飲食店の退去時に必要な原状回復工事について、退去前に確認しておくべきポイントや費用相場を解説しました。
原状回復費用は損耗の程度や店舗の坪数、飲食店のタイプによって変わってきます。賃貸借契約時に取り決めた特約も非常に重要となりますので、契約書の内容をしっかりと確認しておきましょう。
退去時には当事者間でトラブルが起こりやすいため、契約時のやり取りを記録し、入居時の状態を写真に残すなどの対策が必須です。
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