テナントと居住用の原状回復(スケルトン)の違いとは?

2018年05月11日(金)

店舗やオフィスとして利用する物件が決まり、いざ賃貸借契約を結ぶときに、退去時の原状回復について気にする人はそう多くはないでしょう。

実はテナント(事業用)を明け渡す際にもっとも多いのが原状回復をめぐるトラブルなのです。

原状回復にまつわる無用なトラブルを避けるためにも、テナントと居住用の原状回復(スケルトン)の違いや、トラブルの事例について確認しておきましょう。

テナント(事業用)と居住用の原状回復の違い

賃貸物件を退去する際、借主には原状回復が義務付けられており、これについて契約書にも記載があります。しかし、店舗やオフィスとして利用するために物件を借りる場合と居住用として物件を借りる場合とでは原状回復の考え方に大きな違いがあります

まずは居住用、事業用それぞれの原状回復の違いについて確認してみましょう。

居住用の原状回復

マンションやアパートの一室を居住用として借りた場合、退去時の原状回復の費用は借主が負担することになっていますが、日常生活で生じた損耗については貸主負担となっています。

たとえば日光によって壁紙やフローリングが色あせたり、長年の使用によって押入れの引き出しが歪んだりした場合、通常損耗や経年劣化と言って借主の負担になりません。

国土交通省の原状回復ガイドラインでは、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義し、通常損耗や経年劣化の修繕費用は毎月の賃料に含まれると定めています。

事業用の原状回復

店舗やオフィスとして物件を借りた場合、基本的に退去時の原状回復の費用は通常損耗や経年劣化に関係なくすべて借主の負担となっています。

なぜなら、居住用は借主(住人)によって物件の使い方に大きな差異がないものの、事業用は借主(事業主)によって使い方が大きく異なると考えられているからです。

たとえば飲食店としてテナントを利用する場合、中華料理屋とカフェでは内装の雰囲気や間取りも変わってきます。

当然ながら事業用賃貸の場合は国土交通省の原状回復ガイドラインが適用されません。テナントの原状回復義務については個々の契約内容についてしっかりと確認しておきましょう。

さらに個々の契約にもよりますが、店舗やオフィスとして物件を借りた場合の原状回復は、賃貸契約期間中におこなう必要があります。原状回復工事が契約期間中に終わらない場合は、原状回復工事が終わるまでの賃料を借主が負担することとなります。

以上のように居住用と事業用では原状回復の範囲が異なるのですが、テナントを退去するときに借主と貸主の間で原状回復にまつわるトラブルが起きやすいというのが現状です。

テナントの原状回復のトラブル

事業用に借りたテナントを退去する際、原状回復をめぐってのトラブルはさまざまなケースがあります。

とくに居住用の原状回復の感覚で事業用のテナントの原状回復を捉えていると、後々のトラブルの原因となります。

テナントの原状回復にまつわるトラブル事例

引渡時に前の借主が飲食店舗として設置した内装、厨房(防水工事)などが残されていた賃貸物件を借りた。退去時にも「借りたときの状態に戻せばいい」と考えて退去の手続きをおこなうつもりが、いざ解約の時になってオーナーからスケルトン状態への原状回復工事を要求されることになった。

オーナー曰く、「たまたま内装が残っていた物件を引き継いだだけであって、契約書の特約にも原状回復=スケルトン状態に戻すことを明記している」と主張され、相当な工事代金を泣く泣く支払った。

居住用として物件を借りる場合と違って、事業用の場合は契約書等に原状回復の特約について記載されているケースが多く、退去時の原状回復費用は賃借人の負担とするのが相当と認められます。

居住用と事業用の違いをしっかりと把握しておかなければ、退去時になってトラブルの原因となるので注意が必要です。

まとめ

居住用としてマンションやアパートの一室を借りるのと違って、店舗やオフィスなど事業用として賃貸契約を結ぶ経験はそう何度もありません。

居住用の物件を借りる感覚で事業用の物件を借りていては、後になって無駄なトラブルに巻き込まれる可能性がひじょうに高くなってしまいます。

事業用として物件を借りる場合は契約自由の原則がありますので、居住用との違いを意識しながら、原状回復についての特約が記載されているかどうか契約書をしっかりと確認しましょう。

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